韓国人元徴用工に未払い手当316円 時価換算せず
2005年08月12日09時06分
戦前・戦中に朝鮮半島から日本に動員され働かされた韓国人元徴用工らが、終戦直後に受け取れるはずだった厚生年金の脱退手当金を請求したところ、60年前の額面通りの十数円から数百円が支給される例が相次いだ。厚生年金保険法などの制度に時価に応じた換算規定がなく、手当が当時の額のままとなるためだ。元徴用工の人々からは抗議の声が出ている。
新日鉄の前身にあたる旧日本製鉄の大阪製鉄所にいたという韓国・ソウル在住の呂運沢(ヨ・ウンテク)さん(82)には、社会保険庁から「脱退手当金316円を振り込んだ」とする通知が昨年11月に届いた。呂さんは言う。「60年前なら牛が6頭買えた額。今ではうどん1食分にしかならない」
呂さんによると、43年ごろ、製鉄所の仕事についた。起重機操作係として働いたが、常に監視下に置かれ、賃金の大半は強制的に貯金させられたという。「渡すと無駄遣いをするというのが理由だった」。日本製鉄は47年に徴用工の未払い賃金を供託した。呂さんは自身の賃金495円を物価スライドした額と慰謝料など約1900万円の支払いを国と新日鉄に求め、97年に大阪地裁に提訴したが、03年に最高裁で敗訴が確定した。今年2月には、1億ウォンの支払いを新日鉄に求める訴訟をソウル中央地方裁判所に起こしている。
訴訟の過程で、呂さんは42年から3年3カ月間、厚生年金に加入していた事実が判明し、04年に脱退手当金を請求していた。
台湾の旧日本軍人・軍属らに対して政府は、戦時中の未払い給与や軍事郵便貯金など「確定債務」について94年、終戦当時の額面を120倍に換算した額を返済したことがある。
朝鮮半島出身者の年金脱退手当金については政府内に「日韓協定や時効で個人の請求権は消滅している」とする見解もあったが、96年に法解釈が見直され、終戦時の額面通り「18円」「35円」といった額が支給された。元徴用工らは「納得できない」と受け取りを拒否したり、時価換算額の支給を求めたりしている。
社会保険庁は「脱退手当金には制度上、時価換算などの再評価は考慮されていない」と説明している。
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