麻生新政権で旧来型内需相場のシナリオが浮上
2008年 09月 24日 15:45 JST
[東京 24日 ロイター] 麻生太郎政権の誕生によって、株式市場では建設業やガラス土石といった旧来型・内需関連株を軸とした景気浮揚シナリオが浮上している。
麻生新首相は景気対策に注力する方針をすでに明らかにしており、積極財政派を自認する麻生氏の政治姿勢から、公共事業に目を向けるとの見方が株式市場で出ているためだ。ただ、経済政策の比重が道路やダムの建設といった旧来型の景気浮揚策に傾いた場合、過去の経緯からその経済効果を疑問視する声が多く、内外の市場参加者から「失われた10年」の前に戻ったとの印象を持たれれば、日本株のイメージを損なうリスクが生じるとみるマーケット関係者が少なくない。
新政権が誕生した際、株式市場では「政策買い」と称して、その対策を先取りする動きが活発化する。しかし、今回に関しては、麻生氏が総裁選に立候補するたびに動意づく、まんだらけ(2652.T: 株価, ニュース, レポート)などアニメ・コンテンツ関連株が総裁選と前後して買われた程度で、そのほかに目立った動きは出ていない。
市場では「リーマンショックなど金融問題で新政権に対する関心が薄れる一方、誕生後すぐに解散・総選挙、与党敗北で下野──といった可能性があることも、政策買いが盛り上がらない背景になる」(明和証券・シニアマーケットアナリストの矢野正義氏)との指摘もあり、金融問題にマーケットの関心が集中している状況だ。
その一方で、直近の相場は金融問題とともに内外の景況感悪化も下げ要因となっているだけに「景気浮揚という観点から、麻生政権が実施しようとする経済対策を無視することはできない。解散・総選挙といった流動的な要素もあるが、政策が実現した場合の効果を計る作業が必要になる」(準大手証券情報担当者)という。
そうした中で、浮上しているのが公共事業など旧来型内需株の相場シナリオだ。市場関係者によると「麻生新首相の政策ブレーンなどを考慮すれば、公共事業に比重を置いた対策が出るとの思惑も出てくる」(SMBCフレンド証券・投資情報室次長の松野利彦氏)という。セメント会社の経営者だった麻生新首相はかねて、積極財政路線を提唱しており、そこから旧来型の対策にも目を向けた経済政策にかじを切るとの見方が生じやすい。
だが、市場ではこのシナリオを歓迎する雰囲気が感じられないどころか、アレルギー反応を示す向きも多い。松野氏は「金融問題で優位に立つ日本株が売られることはないとみられるが、旧来型対策は財政悪化、改革の遅れをもたらすため、長い目でみた場合、不安を残すことになる」と指摘する。
大和総研・チーフテクニカルアナリストの木野内栄治氏は「市場が経済対策に関して時代に逆行すると感じ取るようになった場合、建設株やセメント株などが物色される可能性が高くなる。しかし、これまで改革の進展で、産業界の構造変化で立ち直った日本株全体のイメージを損なうリスクが生じそうだ」と分析していた。
クレディ・スイス証券・ストラテジストの市川眞一氏は、小渕恵三政権が実施した1998年11月の超大型経済対策は、古い体質の政策と言われながらも株価急騰の起点になった点に着目し「麻生政権は当面の景気対策を重視する結果、株式市場にポジティブなインパクトをもたらす可能性が高い」と指摘する。
しかし、他方で「財政の拡張で経済の新陳代謝が遅れる。少子高齢化、財政問題などを考慮すれば、景気対策の効果は1年程度が限界と考えられる。弱者の淘汰(とうた)、新陳代謝の遅れで持続的な成長に支障が生じるリスクがある」(市川氏)という。
大和総研の木野内氏も「旧来型の対策は、長い目でみた停滞、財政悪化など招き、一時的な効果にとどまる可能性もある」とコメントしている。
(ロイター日本語ニュース 水野文也)
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